お手入れの前に:同じ素材でも製品によって適切な方法は異なります。製品の取扱表示がこの記事の内容より優先します。判断に迷う場合は安全にお手入れするためにをご確認ください。

薬剤は必ず目立たない場所で試してから使い、製品自体の使用上の注意(換気・混ぜてはいけないもの)をご確認ください。

しまっておいた靴を出したら、白や緑の粉のようなものが浮いていた。このとき最初に決めるのは、洗い方でも薬剤でもありません。その靴に誰が触るのかです。米国疾病予防管理センター(CDC)は、体質や持病によってはカビの清掃そのものに加わらないよう案内しており、この条件は靴の値段にも汚れの広さにも左右されません。[M01]

順番はこうなります。触ってよい人かどうかを決め、次に付着物がカビかどうかを保留したまま他の靴から離し、それから範囲と素材と構造を見て、家庭で手入れを試すのか、専門家へ渡すのか、履くのをやめるのかへ進みます。室内で勢いよく払い落とすという操作は、この順番のどこにも入りません。

触ってよい人かどうかが、他のどの条件よりも先に決まります

CDCは、アレルギーがある人、免疫抑制や基礎的な肺疾患がある人、喘息やCOPDなど慢性呼吸器疾患がある人へ、カビ清掃に参加しないよう案内しています。[M01] 清掃に加わる場合も、CDCは少なくともNIOSH承認N95、保護手袋、密閉性のあるゴーグルで口・鼻・皮膚・眼を守るよう求めています。[M01] この記事が扱えるのはここまでです。

これは医療上の個別助言ではありません。症状が出ている場合や持病がある場合、あなたが優先すべきなのは靴の手入れではなく人の健康であり、判断は医療専門職へ委ねてください。

白く見えるものがカビとは限らないので、断定を後ろへ回します

米国国立公園局は、革の表面に出る白い付着物について、脂肪酸の析出、塩、汚れなどがカビに似て見え、画像や目視だけでは区別が難しい場合があると説明しています。[M04] つまり、写真をいくら拡大しても正体は決まりません。

正体が決まらないうちにできるのは、被害を広げないことだけです。その靴を他の靴から離し、袋や容器へ一時的に隔離してください。ただし濡れたまま密閉すると乾燥を妨げるため、隔離と同時に、どこでどうやって乾かすかまで決めておきます。

家庭で手入れを試せるのは、乾いていて範囲が狭い靴に限られます

あなたが自分で手を入れてよいのは、次の条件がすべて重なったときだけです。清掃する人が前節の高リスク条件に当てはまらないこと、付着が建物や靴箱全体ではなく靴の限られた範囲にとどまっていること、靴が十分に乾いていること、ソール剥離やひび、崩れ、強いべたつきがないこと、そして高価な品や思い出の品ではなく、失敗したときの結果を受け入れられること。ひとつでも欠けるなら、次節へ進んでください。

条件が揃ったら、メーカーのケア表示を先に読み、目立たない小さな範囲から試します。革資料に限れば、カナダ保存研究所(Canadian Conservation Institute)は、十分に乾いた対象をHEPAフィルター付き掃除機で近接吸引し、取りにくい付着物を柔らかいブラシでノズルへ導く方法を説明しています。付着物がこすってにじむ場合は乾燥が足りない可能性があるため、同研究所はそこで中止するとしています。[M03]

ただしこれは収蔵資料向けの保存処置であり、すべての日常靴へそのまま当てはめられるという意味ではありません。弱い革、装飾、スエード、接着部のある靴は、専門家へ相談するほうが失敗の影響を小さくできます。なお、家庭用薬剤をどの濃度でどれだけ接触させれば足りるのかを全素材へ共通して示したメーカー横断の条件を、この記事は見つけられていません。だから濃度や時間の数字は書かず、素材ごとの表示に従ってくださいと書いています。

靴のカビを見つけたとき、人の健康、発生範囲、湿り、素材への広がり、再発の順に清掃か専門相談かを判断する図

奥まで入った靴は、洗って乾かしても戻らないことがあります

米国環境保護庁(EPA)は、硬い表面のカビは洗剤と水でこすって完全に乾かせる一方、多孔質材料では内部まで入り込んで完全な除去が難しく、廃棄が必要になる場合があると説明しています。[M02] 靴は革、布、裏地、フォーム、接着剤の組み合わせでできているため、表面から見えなくなったことは内部まで除去できたことを意味しません。

手入れではなく専門相談か使用中止へ切り替える目安は、多孔質のアッパーや裏地、フォームの奥まで広く入り込んでいること、清掃と乾燥のあとでも付着物や強い臭いが戻ること、複数足や靴箱、壁にも同時に出ていること、浸水や汚水の影響を受けたこと、ソール剥離やひび、粉化、崩れがあること、そして高価・希少・思い出の品であることです。壁や靴箱まで及んでいる場合、問題はもう靴ではなく保管場所にあります。

日常靴を素材横断で「この面積までなら救済、これ以上なら廃棄」と決めた公的な基準は、一次資料の範囲では確認できていません。面積だけで決めず、付着物が奥まで入り込んでいないか、清掃と乾燥のあとに戻らないか、靴の構造に劣化がないかを見て、専門相談か使用中止かを判断してください。

カビを止める作業は、靴よりも先に保管場所から始まります

EPAはカビ管理の要点を湿気の管理に置き、濡れた物を完全に乾かすよう案内しています。[M02] つまり、靴を1足きれいにしても、その靴が戻る場所が湿ったままなら同じことが起きます。順番は次のとおりです。

  1. 靴だけでなく、靴箱や周囲の湿気の原因を確認する。
  2. 使用後は汚れを落とし、十分に乾かしてから収納する。
  3. 詰め込みすぎを避け、空気が動く状態を保つ。
  4. 再発した靴は他の靴から離し、保管環境側を見直す。
靴のカビを再発させないための、湿気の原因確認から保管環境の見直しまでの順番を示す図

室内で払う、薬剤を混ぜる、写真だけで決める。この三つは避けてください

乾いた付着物を室内で勢いよく払うと、その場で周囲へ飛びます。複数の洗剤を混ぜること、素材を確かめないまま漂白剤やアルコールを靴全体へ使うこと、カビに見える白い物を写真だけでカビと断定することも、いずれも取り返しがつきません。見た目が戻っただけの靴を、構造を確かめずにすぐ履くのも同じです。

最後にひとつ、この記事が言い切れないことを書いておきます。清掃した靴について、胞子が残っていないことを家庭で確かめる方法を、カナダ保存研究所は示していません。同研究所はむしろ、清掃後も胞子などが残る可能性があるとしています。[M03] だから最終的な線引きは「見えなくなったか」ではなく、あなたがその靴を履いたときに体調へ影響が出ないか、そして構造が保たれているかで引いてください。

出典